J1アルビ谷口海斗選手と行く親松排水機場親子見学ツアー

J1アルビ谷口海斗選手と行く親松排水機場親子見学ツアー

2024年7月30日、県内の小中学生と保護者合計29人が、サッカー・アルビレックス新潟の谷口海斗選手とともに親松排水機場を見学した。「排水機場ってどんなところ?」「何をしているの?」。みんなで一緒に学んだ。

「地図にない湖」とよばれた亀田郷

参加者が続々と集まってきた。中にはアルビレックスのユニフォームを着た子どもや保護者もいる。谷口海斗選手の到着を待つ間、亀田郷の歩みを、新潟県新潟地域振興局農林振興部の近藤専門員が説明してくれた。

亀田郷とは信濃川、阿賀野川、そして阿賀野川の支流である小阿賀野川に囲まれた地域のこと。「緑豊かな田園ですが、近年まで『泥田農業』が行われていたこと、知っていましたか?」

泥田農業?

「稲刈りも田植えも、腰まで水に浸かってやっていたんです」

亀田郷は1万1000ha。その半分以上が海や川の水面より低い土地で、かつては湿地帯に葦(あし)が生えていることから「芦沼」「地図にない湖」と呼ばれていたという。

提供:亀田郷土地改良区

親松排水機場ってこんな施設

農林水産省北陸農政局信濃川水系土地改良調査管理事務所の袖山次長が話を継いだ。

「腰まで水に浸かって農作業するのは大変だと、昭和20年代に排水機場が整備され始めました」

排水機場とは、地区内の排水をポンプの運転により河川に送り出し、排水改良や湛水被害を防止する施設のこと。この親松排水機場の前身は昭和43年に完成。その後、平成19年に2代目の現・親松排水機場が誕生した。

「そのおかげで、米や野菜、果物、花などを育てられるようになったんです」

谷口海斗選手、合流

谷口海斗選手が到着した。「アルビレックス新潟の谷口海斗です。谷口農園の園長でもあります」。谷口選手は新潟聖籠スポーツセンター一角に畑を作っていて、栽培や収穫の様子は動画でも配信されている。「排水機場は農業とも関係が深いと聞いています。どんなところなのか、みんなと一緒に学んでいきたいと思います。特にこの間(7月25日)のゲリラ豪雨では、どんな活躍をしていたのか知りたいところです」

まずは屋上から見学が始まった。

排水機場の屋上へ。亀田郷を見下ろす

デンカビッグスワンの方を見渡す。平たい土地に見えるが、実はすり鉢状になっているという。

新潟地域振興局の近藤専門員が説明してくれた。「亀田郷地区では鳥屋野潟が一番低いので、雨が降ると水が流れ込みます。その水が田んぼや住宅街にあふれないように働いているのが、この排水機場です。下に川が見えますよね?あれは鳥屋野潟放水路という人工の川で、鳥屋野潟の水を信濃川へ流すためにつくられました」

どういう時に水を流すんですか?」。小学生から質問が上がった。

「あのコンクリートの橋げたのところに、0.5とかマイナス2.5とか数字が見えますね?あれは水面の高さで、鳥屋野潟はマイナス2.5m。水位が上がり、ある一定の水位になると信濃川に水を送り出します」

近藤専門員は振り返って信濃川を指差した。

「あちらに流れているのが信濃川です。鳥屋野潟よりも高いこと、分かりますよね?だから、ポンプを使って強制的に排水しなければならないんです」

反対側に移動するとこちらには信濃川。吐水槽(とすいそう)から水を川へと送り出す青いゲートが見えた。

私たちの暮らしを守る排水機場

親松排水機場の隣にはもう一つの排水機場がある。名前は鳥屋野潟排水機場。「亀田郷では年々、商業施設や住宅が増えています。それによって鳥屋野潟に流れ込む水の量は年々増え、また集中豪雨による被害もあり、もっと排水能力を上げなくてはならないと鳥屋野潟排水機場がつくられました」

排水機場はもともと、農地を守るために生まれた。ただ、現在は農地だけでなく、街を守る役割も大きい。見えないところで私たちの暮らしを支えてくれているのだ。

「さて、中に入りましょうか」。

ポンプを動かす原動機室、そして心臓部であるポンプ室へ

参加者は原動機室に入り、水を送り出すポンプを回す機械を見学した。

「ポンプの中には羽根車があります。これを動かす機械は合計4台。2台が電気で動き(電動機という)、もう2台がガスタービンで動きます。どうして2種類あるか、分かりますか?」

首をかしげる参加者たち。

「停電した時のためです。電気が停まった時は、電動機が動かないのでガスタービンでポンプを動かします」

次は排水機場の心臓部分であるポンプ室を目指した。地下にあるポンプ室に向かって階段を下っているとだれかが言った。「涼しくなってきたー」。

「4台のポンプで毎秒、60m3の水を送り出しています。25mプールの水が6秒あまりで空になるパワーです」

参加者は促されてポンプ室の中へ。大きな鉄筒の中には、直径2.4mの羽根車が入っているという。

「軸が見えているの、分かりますか?あの軸が、さっき見た電動機とつながっていてぐるぐる回る、それに応じて羽根車も回り、水を送り出します」

見上げると壁に書かれた数字がある。小学生が「0.7って何ですか?」と尋ねた。

「あれは信濃川の水位です。ということは、私たちは今、川の下にいることになります」

不思議な気持ちを抱えつつ、ポンプの下を次々とくぐる子どもたち。「触っていいですよ」と言われ、触ってみたり、叩いてみたり。「ちょっと冷たいね」。

排水をコントロールする操作室

最後は操作室へ。たくさんのスイッチやコンピューター、モニターが並んでいる。

「今、画面を見ると、1号機のポンプのところが赤くなっていますよね。動いているというサインです。動かすのも止めるのも誤作動がないように人の手で行っています」

24時間体制で、平日の昼は3人、夜は2人で任務を行っているという。

「こちらのモニターには、川から水をくみ上げる揚水機場が示されています。田んぼに水が足りない、水が必要な時期には、ポンプアップして用水路へ水を送り、田んぼに届けます。余ると鳥屋野潟に集められ、排水します」

もともと揚水機場は別の場所で動かしていましたが、こちらに移して一緒にコントロール。くみ上げすぎないように、無駄を省いているそうだ。

ビッグスワンと排水機場 意外なつながり

さて、実際にポンプはどのくらいの頻度で活動しているのだろう?

「1号機と2号機のどちらかは毎日動いています。3・4号機は月に1度くらい。隣の鳥屋野潟排水機場のポンプも含めてすべて動かすのは年に2、3回でしょうか。でも今年すでに2回も全て動かしました」

谷口選手がはじめに言っていた7月25日の大雨の時だという。

「今年は雨が多いということですね」

うなずく子どもたちに近藤専門員が最後、まとめた。

「みんなが応援に行くビッグスワンも、この排水機場がなければできなかった。腰まで浸かってしていた農業も、普通にできるようになり、家も建った。でも、今でもポンプが動かなければ、この辺は水浸しになってしまうんです」

日ごろは気に留めない施設の大切さを参加者はそれぞれに感じ取っていた。南蒲田上町の小6男子は「屋上からビッグスワンとか亀田郷とか、いつも見られない景色を見ることができた。昔は腰まで浸かって農作業をしていたこともはじめて知った。この親松排水機場がなかったら田んぼ仕事も大変で、僕らもアルビの試合も見られなかったと思うと、ここがあって良かったと思った」と話す。保護者は「子どもをサッカースクールに送る時、いつも舞潟の水門の脇を通っていて『大きいね、何だろうね』と話していましたが、今日、話を聞いてつながりました。私たちが見ている景色、普段の暮らし、ビッグスワンや雨のこと。いろいろなことのつながりが見えて、とても興味深かったです」

新潟市中央区の小6男子は「ポンプがすごく大きかったこと、動かすのに電気だけじゃなくて灯油も使っていると聞いて驚きました。プログラミングに興味があるので、どうしたらこんな大きなものが動かせるのか、もっと知りたいです」と意欲を語った。

参加した谷口選手は「最近、大雨があったことから、その働きがとてもありがたく、身近に感じられました。さらに新潟の農家も、試合で行っているビッグスワンも、この排水機場のおかげだと分かったことは、大きな収穫でした」と話していた。

谷口選手も後半ピッチに

施設見学に参加した多くの親子連れが7日、デンカビッグスワンで行われたジュビロ磐田との試合を観戦した。アルビレックス新潟は前半、鮮やかなゴールで2点を奪って折り返した。後半は押し気味に試合を進めたものの追加点を奪えず、追い付かれ2-2の引き分けに終わった。谷口選手は後半から途中出場。ゴールに迫ったが、ネットを揺らすことはできなかった。

オレンジ色を身にまとった新潟市南区の小5の男子児童は、試合に勝てず「くやしかった」と残念そう。小3の女子児童は「アルビ好きをきっかけに、まちを水害から守る排水機場について知られて良かった。普通に米が収穫でき、ご飯を食べられるのは幸せなことだなと感じた」と話した。40代の父親は「排水機場の見学は、自宅の周りに田んぼが多いので、施設の大切さも分かってくれたようだ。機会があればまた参加したい」と話していた。